「テロワール」の概念はrelier+(るりたす)「るりたす的テロワール」でも述べたとおりですが、近年では日本酒造りとの関わりも注目されており、日本酒の酒造メーカーや日本酒銘柄のウェブサイトでは「テロワールを意識した酒造り」「日本酒のテロワール」など、テロワールへの取り組みについて説明しているページをよく見かけるようになりました
ワイン業界で生まれたテロワールは「ワインに使用されている、そのブドウが育つ環境すべて」を表していますが、日本酒でも「日本酒に使用されている、その米が育つ環境すべて」と言い換えることが出来るのではないでしょうか
例えば、東北農政局では「東北・日本酒テロワール・プロジェクト」が2015年に立ち上げられ、地域で生産された米や地域の水を使った日本酒生産と、それを支える酒米生産の振興を図るための環境整備への検討会が開催されたほか、同局では東北地域における「テロワール日本酒リスト」も公表されています
また国税庁では近年の日本酒輸出増加に伴い、グローバル視野で日本酒の価値向上とブランド戦略、販路と輸出拡大のための国際的プロモーション強化対策として「日本酒、日本ワインにおけるテロワールの活用」等に4.7億円の予算(2019年度:日本産酒類ブランド化促進)を計上していることから、やはり国の後押しとともに日本酒業界全体でテロワール意識が浸透していると思われます
ワインは原料となるブドウを発酵させてお酒になりますが、日本酒も原料の米を発酵させてお酒になります。両者に工程や手間、添加するものの差異はあっても原料をアルコール発酵させて醸造する概念は変わりません
ブドウも米も、造られる土地の気候や土壌、自然環境によってさまざまな個性を持っており、それらの個性を生かしながら造られていることや、どちらも「食中酒」であることなど、ワインと日本酒は似ているといっても過言ではなく、先述のように日本酒業界でテロワールの概念が浸透していることも納得できます
relier+(るりたす)では、そんな「テロワール」をテーマに純米酒とフランス料理をマリアージュしたイベントを開催しました
このイベント、じつは『純米酒とワインって似ているよね!?』というスタッフの一言から始まったのです
そんな発想から、純米酒専門店「まきしま酒店」さんと、フランス・リオン料理「ナディヤ」さんの協力によって実現できたイベントだったのです
純米酒は「米・米こうじ」と、水だけでつくられたお酒をいいます
ブドウのように、米自体にはアルコール発酵に必要な糖分が殆ど含まれていないため、まず米に含まれるデンプンを「こうじ菌」で糖分に変えて増殖させる「糖化」をしてからアルコール発酵させていきますが、その醸造は下図(図1)のように細かな工程を踏まえます
上図には「火入れ」が2回ありますが、一度も火入れせずに出荷されるものは「生酒」、生のまま貯蔵した後に火入れをして出荷されるものは「生貯蔵酒」と呼ばれます
また清酒に火入れしたものを貯蔵せずにすぐ出荷されるものは「新酒」と呼ばれ、米が実る秋冬~翌年春までによく見られます
このように原料となる米や水はもちろんのこと、火入れするかしないか、どの工程で出荷するかなど、醸造工程のひとつひとつに酒蔵や杜氏の「こだわり」や「想い」が込められているのです
一方で、「米・米こうじ」、仕込み水に加えて醸造アルコールを添加すると、純米酒ではなく「本醸造酒」または「普通酒」と呼ばれることから、醸造アルコール添加の有無によって呼称が変わることになります(図2)
醸造アルコールの原料はサトウキビやトウモロコシなどを原料とする「蒸留酒」です。醸造アルコールを添加する理由は、お酒の味を安定させたり、香りの調整のために使われるほか、雑菌やカビなどを防ぐ防腐効果もあるのです
relier+(るりたす)では、同じテロワールならフランス料理の食中酒を“ワイン”ではなく“日本酒”に変えてみようという発想から、イベントで提供する日本酒は純米酒にこだわりました
比較とするワインには醸造アルコールが添加されていないという側面もあります
純米酒には特定名称として下記の4つがあります
一般的に大吟醸や吟醸と名のつくものは冷酒または冷やが適し、昔からあるような純米酒は燗酒が適していることが多いのですが、醸造メーカーや銘柄、さらには火入れの有無によっても最適な飲み方は変わってきます
表示区分 | 品質の基準 | 適した飲み方 |
---|---|---|
純米大吟醸酒 | 精米歩合が50%以下の白米、米こうじ及び水だけを原料とした吟醸酒 | ◎冷酒・冷や △燗酒 |
純米吟醸酒 | 精米歩合が60%以下の白米、米こうじ及び水だけを原料とした吟醸酒 | ◎冷酒・冷や △燗酒 |
特別純米酒 | 精米歩合が60%以下の特別な方法(要説明表示)で製造した純米酒 | ◎冷酒・冷や ◎燗酒 |
純米酒 | 白米、米こうじ及び水を原料として製造したもの | ◎冷酒・冷や ◎燗酒 |
では「フランス料理に純米酒の燗酒」って合うのでしょうか?
なんだか、体験してみたくなりませんか?
闇雲に手当り次第で試してみるより、プロの純米酒マイスターとフランス料理人が豊富な経験と知見を出し合ったマリアージュを味わってみる
その味わいを、どう感じるか、楽しむかは自由
ご来店いただいたお客様からは 「なるほどアリっちゃアリかな」「意外な発見があった」との評価もいただきました!
ところで、この頁ではいくつかの表データを国税庁のサイトから引用していることにお気づきでしょうか…?
知っている方も多いと思いますが、日本酒に限らずビールやワインなどお酒(酒類)に関する表示区分や統計資料等を管理・公表しているのは国税庁なのです
何故、国税庁なのかといえば…
お酒に課税される「酒税」を管理しているからです
酒税といえば、最近では2018年の酒税改正において、2026年10月までに分類と税率が見直され段階的に変わっていくことが決定しています
例えば「ビール」は今後税率が下がっていくものの「発泡酒や新ジャンルのビール系飲料」は反対に税率が上がっていき、最終的に両者は「発泡性酒類」として税率が一本化されます
同じく「清酒(日本酒)」も税率が下がっていきますが、ワイン等「果実酒」は税率が上がっていき、最終的に両者は「醸造酒類」とし一本化されます
酒税の税率が変わると、商品の小売価格にも反映されてしまうことが多く、消費者である私たちの家計にも大きな影響を及ぼしかねません
せっかくテロワールを意識した米や水を使い、発酵したもろみを搾り取って出来た美味しい純米酒も…国税庁に「税」を搾り取られるのは、なんとも皮肉としか言いようがありませんね